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無罪事件から学ぶ刑事弁護 その(1)

私は、33年間検察に身を置き、上訴(控訴、上告)の要否を検討する審査の場に出席するなどして、数々の無罪事件を見てきました。もとより当時は、検察の立場から、上訴すべきか、あるいは上訴が可能かといったことを検討していたわけですが、上訴ができないどころか、そもそも何故こんな事件を起訴しているのかと思われる事件や事件自体は犯人性も含め間違いのないものだと認められるのに、捜査や公判活動が不十分・不適切であったため、上訴すべきではないといわざるを得ない事件もありました。
これを弁護人の側から見れば、事案の真相・実態を捜査官に理解してもらえれば、誤った、あるいは不適切な起訴を防ぐことができるということになりますし、捜査の欠点や見込み違い、公判活動の不充分さを説得力を持って指摘できれば無罪を勝ち取ることができるということになろうかと思います。加えて、裁判所の立ち位置も、長くいわれてきた「検察寄り」から、ここ数年間は「アンパイヤ」に変わりつつあるという実感がありますから、弁護人にとってフォローの風が吹きつつあると思われます。
そこで、検事から弁護士に立場を変えた今をいい機会だと捉え、いくつか印象に残った名もない事件等を題材に、弁護活動をするに当たっての視点・ヒントについて考えてみたいと思います。事件の内容等は私の記憶の中にのみあり、必ずしも正確なものではありませんし、事件が特定されないよう抽象化せざるを得ませんが、無罪理由等のポイントは外していないと思いますし、ここでの目的からすれば事件内容の正確性は特に必要ないと思いますのでご了承ください。
なお、私は、退官前、最高検察庁検事の立場から、これから地方検察庁の次席検事や部長・支部長になる検事を対象にして、ある著名な再審無罪事件を中心に、決裁の在り方に関する講義をしたことがありましたが、驚いたのは、著名な再審事件であるにもかかわらず、その事件の内容や捜査・公判上の問題点をほとんど知らず、他人ごとのように考えていた検事が少なからずいたということでした。私は、検事にとって無罪事件というのは、自分で経験できない多くの教訓を与えてくれる宝物だと思っていましたから、内部の速報や判例集等を読んで、できるだけ勉強したものでしたが、著名事件の内容すら知らない中堅検事が少なからずいたことに驚き、これでは適正な決裁ができないのではないかと不安にならざるを得ませんでした。
このことは弁護士にとっても同じであって、自分で経験できないことを、過去の著名あるいは名もない無罪事件等から学ぶことの意義は決して小さくないと思う次第です。
それではこれから事件ごとにキーワードを挙げて(事件によっては複数のキーワードに引っかかるものがあります)、順次紹介していくこととします。
この投稿は、できる限り継続し、更新していこうと思います。

弁護士 粂原 研二