捜査機関は、目的を達成するため、被疑者・参考人の取調べや実況見分を行い、また証拠物の任意提出を受けたりして証拠収集を行います。調査機関も同様ですが、取調べのことを質問調査といっています。
捜査・調査は、任意つまり相手方の同意や承諾を得て行うのが原則です。強制捜査・調査は、法律に特別の規定がある場合に限り行うことができます。
任意捜査・調査の段階では、広く関係者の取調べ等が行われるのが通常です。捜査・調査機関の側でも容疑事実や容疑者を絞り込めていないからですし、初めは参考人として取調べを受けていたのに途中から被疑者(調査の場合は嫌疑者といいます)として扱われることもあります。
自分が何の容疑で取調べを受けているのか分からず不安であるとか、こういう容疑で取調べを受けるいわれはないと思う場合には、弁護士に相談してください。弁護士が捜査・調査機関と交渉したり、意見書を提出したりして、容疑があらぬ方向に広がったり、依頼者が逮捕されるのを防ぐことができる可能性があります。不安な状態のまま捜査・調査の流れに身を任せるのは決して得策ではありません。
一般の人は、そもそも捜査・調査に応じたり、証拠物を提出したりする必要があるかどうかさえ判断に困るのではないでしょうか。
強制捜査の代表は、逮捕・勾留と捜索・差押え(いわゆるガサ)です。調査機関には逮捕権限はありません。
(1) 逮捕の手続には、通常逮捕、緊急逮捕、現行犯逮捕の3種類があります。ここでは、最も多い通常逮捕手続について説明します。
被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、捜査機関は逮捕状を裁判官に請求した上、被疑者を逮捕することができます。
警察官が逮捕したときは、留置の必要がなければ釈放し、留置の必要がるときは48時間以内に検察官に送致しなければなりません。検察官は、受け取った被疑者に留置の必要がないと認めるときは釈放し、留置の必要があると認めるときは、被疑者を受け取った時から24時間以内に裁判官に勾留の請求をしなければなりません。
検察官が自ら被疑者を逮捕したときは、留置の必要がないと認めるときは釈放し、留置の必要があると認めるときは、48時間以内に裁判官に勾留の請求をしなければなりません。脱税、金商法違反、独禁法違反、独自捜査の贈収賄事件等は検察官が自ら被疑者を逮捕する場合です。
被疑者は、逮捕されたとき、犯罪事実の要旨と弁護人を選任できることを告げられます。
(2) 検察官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、
のいずれかの理由があるときに裁判官に勾留を請求します。
*平成22年に交通事故や交通違反を除く刑事事件のうち、逮捕されたのは全体の事件の約32パーセントで、引き続き勾留されたのは全体の約28パーセントでした。一般刑事事件のうちの約3割が逮捕勾留されていると考えられます。
裁判官は、勾留の理由がないと認めるとき等を除いてすみやかに勾留状を発布しなければならず、勾留状を発布しないときは釈放を命じなければなりません。
勾留が認められると被疑者は警察の留置場や拘置所等に勾留されます。
勾留の期間は、勾留請求した日から10日間ですが、さらに10日間の勾留延長が認められることがあります。
(3) 捜査機関は、勾留中に被疑者や参考人の取調べ等を行います。
検察官が自ら被疑者を逮捕勾留した場合や裁判員裁判対象事件など重大な事件については取調の様子を録音録画する取り扱いになっていますが、多くの事件は録音録画の対象外とされています。
裁判官は、検察官の請求により又は職権で、被疑者と弁護人又は弁護人となろうとする者以外の者との接見を禁止することができます。
検察官等は、捜査のため必要があるときは、弁護人等の接見の日時・場所・時間を指定することができますが、この場合でも被疑者と弁護人等との接見のすみやかな実現に配慮しなければならない取扱いとなっています。
(4) 最近はメールでのやりとりなどが重要な証拠になるため、いわゆるガサを先行させ、パソコンや携帯のデータを差押え、メール等の内容を解析してから逮捕等に移行することが多くなっています。
弁護士は、勾留の理由や必要がないと考えるときには、捜査機関や裁判官に面談を求め、その旨説明して勾留されないよう活動することも可能です。
逮捕・勾留された人は、同じ経験を何度もした人でない限り、動揺し、今後どうなるのか、自分や家族の将来はどうなってしまうのかなどと考え、不安でいっぱいになりますし、家族の生活費や会社の資金繰りの手配等も必要になることがあります。
このような被疑者が最も頼りにできるのが弁護士であり、最も重要なのが弁護士との接見です。被疑者は、弁護士を通じて外の社会との接点を保つことができますし、取調べを受けるに当たっての貴重かつ重要なアドバイスを受けることが可能になり、強い味方を得ることで折れそうになる気持ちを立て直すことも可能です。 しかし、接見を重ねても弁護士が単なる伝言役にすぎないようではあまり意味がなく、刑事事件の実務経験を積み、取調べの実情にも精通した弁護士によるサポートが是非とも必要です。
弁護士は、被疑者が否認している場合には、事実関係をよく聞き、それを裏付ける証拠を集めたり、検察官に意見書を提出したりする活動も行います。被疑者が認めている場合には被害者のいる犯罪であれば示談を進めたり、検察官に意見書を提出したりします。
勾留に関しては、勾留決定に対する準抗告、勾留取消請求、勾留執行停止の申立て、勾留理由開示等の対抗手段もあり、裁判所を説得できるだけの理由があるときは、これらも被疑者を拘禁状態から解放する有効な法的手段となりますが、実務的にはかなり難しいといわざるを得ないのが実情です。