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元検事・弁護士粂原研二による刑事事件の実務

無罪事件から学ぶ刑事弁護 その(4)

俯瞰 (1)

事件の概要

ある強盗殺人事件の余罪として起訴された恐喝事件です。強盗殺人事件は後に無罪となりましたが、恐喝事件は有罪となって確定しています。
検察官は、先に逮捕勾留されていた強盗殺人事件を一旦処分保留で釈放しましたが、その日に恐喝事件を求令状起訴しました。求令状というのは、身柄の拘束を受けていない被疑者について公訴を提起(起訴)する場合に、被告人として勾留する必要があると認められるときに行われます。その後、検察官は、一旦釈放していた強盗殺人事件を求令状起訴しました。
このような捜査・起訴の経過自体異例のものといえますが、問題なのは、各事件の犯行が行われた日にちと場所でした。
仮に、強盗殺人が行われたのが、1月1日だとすると、恐喝事件のうちの1件は、1月2日、もう1件は1月4日が犯行日であるとされていました。恐喝事件の犯行の場所は、いずれも強盗殺人事件の現場の近くで、いずれの犯行現場もかつての被告人の生活圏内でした。
被告人は、強盗殺人の犯行により、多額の現金を得ていましたが、すぐに使い果たしたことになっていました。恐喝事件で得た財物は、1件目がわずかな飲食物で、2件目がわずかな現金でした。
この起訴内容を前提とすると、強盗殺人の犯人が犯行の翌日には金に困り、現場近くに赴いてわずかな飲食物の恐喝事件を起こし、更に被害者の遺体が発見されて大騒ぎになった日の翌日にも現場付近に赴いてわずかな現金の恐喝事件を敢行していることになるわけです。強盗殺人は重罪であり、その犯人の行動としては、あまりに大胆であり、違和感を感じざるを得ません。
強盗殺人の犯人であれば、現場からなるべく遠くに逃げたいと思うでしょうし、警察が捜査を開始し、聞き込み等を行っていると当然予測できる現場の近くにわざわざ接近しようとは思わないのではないでしょうか。
捜査官としては、当然そのあたりが気になり、恐喝事件の取調べをする際には、当時の心境やわざわざ強盗殺人事件の現場近くに行って犯罪を犯した理由等を聞きたいところですが、被告人の供述調書にはそれらが全く記載されておらず、恐喝事件の犯行の様子が一話完結的に淡々と記載されているだけでした。警察官も検察官もいったいどういう考えを持って取調べに臨んだのでしょうか。


ポイント

強盗殺人事件の無罪判決の中でも恐喝事件との関連についての指摘はなかったと思いますが、この点も強盗殺人事件についての事実を認める供述の信用性を否定する方向に働く事情の一つになると思われます。
検察官は、事件全体を俯瞰してみて、その中に不自然な出来事や事実はないかと検討することが重要だと思います。
弁護人としても、起訴事実全体を俯瞰し、不自然・不合理な点がないかを検討すべきであると思いますし、感じた違和感を大切にしてその原因を探ることが必要だと思われます。



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