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元検事・弁護士粂原研二による刑事事件の実務

無罪事件から学ぶ刑事弁護 その(6)

捜査経済・裏付け捜査 (2)

久しぶりの投稿です。ある軽微な暴行事件の再審が開始され無罪が言い渡されました。裁判所も被告人の言い分に少しは耳を傾けるようになってきたといえるでしょうか。

事件の概要

ある地方で起きた単純な暴行事件です。被害者側の供述によると、被害者の女性が運転し、その知人の男性が同乗する車が道路工事が行われていた道路上で停止していると、酒に酔って歩いていた被告人が車を蹴ったので被害者の女性が車から降りて文句を言ったところ、被告人に体を掴まれて押し倒されたということでした。
被告人は、酒に酔っていて覚えていないが、相手がそういっているなら間違いないと思うと供述し、略式手続きで罰金刑の命令を受けました。

しかし、被告人は、自分の性格から考えてそんなことはしていないのではと思い直し、弁護士に相談の上、道路工事を行っていた会社を探し出し、その工事現場にいた現場監督に話しを聞いたところ、現場監督は、被告人が暴力を振るったところは見ておらず、女性が被告人を蹴ったりしているのを目撃していること、車は男性が運転していたと思われること等が分かりましたので、被告人は、裁判のやり直しを求めました。
検察官も補充捜査をしたところ、女性が自動車の修理会社に対し、なるべく高い見積りをするよう要請していたこと等が判明しました。
警察・検察は、本件犯行現場が工事現場であることをもちろん知っていましたが、被告人が、酔っていて覚えていないが被害者がいっていることは間違いないと思う旨述べていたことに気を許し、現場監督等の工事関係者の取調べを行わず、また、警察が撮影した被告人が蹴ったという車の写真からは傷や汚れが明確には確認できなかったのに、修理業者の取調べも行わず、安易に事件処理を行ったのでした。被告人が覚えていないのなら、被害者の供述が信用できるかどうかが重要であり、その裏付けを取ってから信用性を判断すべきでしたが、被告人が敢えて否認しなかったことから、基本的な捜査を怠ってしまったものと思われます。
検察では、「捜査経済」という言葉が使われます。その事件が、手間や労力をかけるに値しないというときやその事件に見合う手間や労力をかけるべきであるというとき、また、結論が見えているので手間や労力をかけても無駄であるというときなどに、「捜査経済を考えろ」などという使い方をするわけです。
本件についても、被害者とその知人の供述があったのだから、捜査経済を考えれば、本件捜査・処理に特に問題はないという意見をいう検察官がいるかもしれませんし、現に幹部検察官がそのようなことをいっているのを聞きました。

しかし、本件は捜査経済の観点から論じるような問題ではなく、人を処罰するという検察権力を行使するに当たり、捜査の基本が行われていたかどうかという観点から論じるべき問題であると思います。
警察・検察の持つ権力は強大ですので、それを行使することによってどのような結果が発生するのか想像力を働かせてもらいたいと思います。一般のサラリーマンであれば、暴行罪で罰金刑を受けることによって解雇されようなことにもなりかねないのですから、捜査経済を考えて手抜きの捜査・処理をしようなどと思わず、いやしくも人を処罰する以上基本的な捜査だけは行ってもらいたいものです。


ポイント

酔っていて覚えていないということはよくあることだと思いますが、だからといって相手のいうことが真実であることにはなりませんので、捜査官に対しては、「よく覚えていないけれど、相手がいっていることが正しいかどうかよく調べてください。正しいと分かれば私も納得します。」と主張すべきですし、弁護人も捜査機関に対し、具体的捜査事項等を示して、その旨要求すべきだろうと思われます。捜査機関が動いてくれないようであれば、弁護人自ら目撃者捜し等の裏付け活動をする必要もあると思います。



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